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コラムひとつの食材アレンジ特集

もやし

vol.21

2011年5月25日

 もやしは、野菜売り場の片隅に、いつも山積みにされていて、お値段も手ごろということで、給料日直前のお財布がピンチ!といった場面での出番が多いではないかと思います。昔はもやしといえば1種類しかなかったものですが、最近では太もやし、ブラックマッペもやし、豆もやしと、主な物だけでも3種類が見られ、それぞれにひげ根を取った根きりもやしもあります。そもそも、もやしとは何から作られているのでしょうか。

 もやしは、水に漬けた豆が発芽した状態のもの。その名の通り、豆の芽を「萌やし」たものです。その豆の種類の違いで、太もやし、黒マッペもやし、豆もやしなどと呼ばれているのです。それでは、それぞれのもやしについて簡単に紹介しましょう。

●太もやし(緑豆もやしともいう)は、緑豆を発芽させたもので、軸が太くて水分が多く、それゆえシャキシャキとした食感とみずみずしさが特徴です。ほんのりとした甘味があり、炒めもの、あえもの、ラーメン、鍋物など、何にでも合います。太いわりには火が通りやすいので、すばやく調理できます。関東ではこの太もやしが好まれているようです。

●ブラックマッペ(ケツルアズキ)は、ブラックマッペと呼ばれる豆を発芽させたものです。太もやしよりも細く、食べた時にもやし独特の青臭さが少ないといわれており、広島焼きやラーメン、味噌汁などによく使われています。

●大豆もやしは、大豆を発芽させたもので、豆が若干固く、軸にも独特の歯応えがあります。生では匂いが強いので、加熱調理に向いています。韓国料理のビビンバやナムルに使ったり、鍋やスープのだしとして使われています。
 
 その昔、人類が初めて植物の種子が発芽することを発見し、人の手で発芽させることに成功したことからもやしが始まったとされています。その発芽方法が、中近東、地中海東部沿岸から イラク、トルキスタンあたりを経て中国に伝わり、そこから広くアジアに伝播したとの説が有力です。日本では、平安時代に書かれた「本草和名」に「毛也之(もやし)」として紹介されていますが、どうやら薬用として栽培されていたようです。その後、江戸時代の「和漢三才絵図」には、膝の痛みなどに黒豆をもやしにして乾燥させ、煎って服用するという処方が載っています。
 
 長らく薬用とされてきたもやしは、明治末期から大都市に生産者が現れ、中華料理店に納入されるようになって、庶民も口にするようになっていきました。その頃は、もやしといえば大豆もやしが多かったのですが、戦後、海外からブラックマッペが安価で輸入され、昭和40年代に中華料理やラーメン、焼き肉などの普及とともにブラックマッペもやしの消費が拡大し、スーパーでも簡単に入手できるようになったのです。ブラックマッペもやしが普及するに従って、生産コストが高く、匂いが強くて固めの大豆もやしは人気がなくなりました。その後、昭和60年代に、中国から緑豆が輸入されるようになり、太もやし(緑豆もやし)の独特のシャキシャキとした食感と色の白さから一気に関東地方で一般的になりました。そして段々と西日本にでも太もやしの消費が増えていったのです。とはいうものの、西日本ではまだ、もやしらしい香りを持つブラックマッペもやしを好む人も多いようです。

 平成に入って焼き肉ブームや韓流ブームなどでピビンパやナムルなどの韓国料理が広く食べられるようになり、大豆もやしの消費が伸びて、常時大豆もやしを置いているスーパーも珍しくなくなってきました。

 もやしの利点は、年間を通じて安定した価格と供給だけだと思われがちですが、実は栄養的に見ても優れた食品なのです。もともと豆には良質の植物性タンパク質が他の野菜に比べて多く含まれていますから、発芽した豆類であるもやしには、植物性のたんぱく質、そしてそれが分解されたアミノ酸が含まれているのです。それに、豆には微量にしか含まれないビタミンCが、発芽という過程を経ることによって増えるのです。他には、鉄分、ビタミンB1、カルシウム、ミネラル、食物繊維なども含まれています。また発芽によってアミラーゼという消化吸収を助ける酵素も作られ、豆のままだと消化の悪さが難点だったものが、発芽させることで身体によい食べ物へと変化していきます。こういった働きを体験的に知っていたのでしょう、中国では昔から疲労回復や滋養強壮の食べ物として珍重されてきました。沖縄では「長寿の秘薬」としてチャンプルーなどとしてたくさん食べられています。 また、もやしは肝臓の機能を高めるといわれているので、飲み過ぎた時にもオススメです。その他のもやしの効果として、もやしを加えたスープは、加えなかったものよりも旨みが増します。もやしにすることで、豆の時にはなかった旨みが増えるようです。

 ところで、もやしは豆から作られるので、野菜だと思いますよね。ところが、もやしは工場で土を使わずに栽培されている所から、農林水産省の生産統計には載らず、もちろん植物なので、通商産業省の工業統計にも掲載されないという、ちょっと変わった位置づけになっています。そこでもやしの生産量は、原料豆の輸入量で統計を取られています。
 
 最後に、新鮮なもやしの見分け方をお知らせしましょう。もやしはとても傷みやすいもの。スーパーなどでもやしを買う時には、できるだけ茶色く変色していないものを。特に、袋に水分が溜まっていないもの、袋の中にあまり空気が入っていないものを選ぶとよいでしょう。そして購入したら、できるだけ早く使いきりましょう。半分使って、残りもう半分を後で使いたいという時には、さっとゆでて酢の物などにしておくと、2〜3日なら冷蔵庫で持ちます。また、きれいに洗って冷凍し、味噌汁などに凍ったまま入れることもできます。

ローカロリーでヘルシーかつ栄養価も高いもやしを、今回のレシピを使って、たくさん食べてくださいね。