日本で、一般人が豚肉を食べだしたのは明治期に入ってから。それも、牛鍋という代表料理が流行った牛肉と違って、豚肉の代表料理のカツレツなどは、家庭で調理するには少し難しく、どうやら牛肉よりは普及が出遅れたようです。どちらにしろ、当時、豚肉や牛肉は外食をするのが普通で、家で調理するのはまだまだハードルが高い時代でした。第二次大戦後、洋風のレストランが一気に増え、小学校の給食でも肉食のおかずが供されるに至り、肉食が日本全国に広がりました。

皆さんは、肉じゃがに入れる肉は？と聞かれたら豚肉派ですか、牛肉派ですか。よく、東日本の肉じゃがは豚肉で、西日本では牛肉で作るといわれていますが、実際の家庭はどうなのでしょうか。肉食が認知され始めた明治の頃、西日本では田畑を耕すのに牛を使っていました。その牛が働けなくなった時に、廃用牛として屠殺してその肉を牛鍋などにして食したようです。その一方で、北海道を筆頭にして東日本では農耕には馬を使っていましたが、馬を食す習慣は育たず、家畜として導入された豚を食用にしたのが今日東西の肉の嗜好を形成しています。しかしそんな豚肉消費の東高西低も、最近は少しずつ変わっていっているようです。

平成23年に発表した平成22年度の食料・農業・農村白書によると、平成2年には顕著に東日本と西日本で豚肉と牛肉の消費傾向に差があったものが、平成21年になると、主に西日本で豚肉の消費割合が牛肉を上回る県がほとんどとなりました。東日本では、豚と牛は約20年前と消費割合に大きな差はなく、相変わらず豚肉が主たる食肉になっています。このあたり、西日本の嗜好の変化によるものなのか、経済的なものが原因なのかはわかりませんが、ひとついえることは、いま時代は豚肉に大きく舵を切っているということです。

では、そんな豚肉を美味しく楽しむにはどうしたらいいでしょうか？元・神戸メリケンパークオリエンタルホテルのステーキハウス・オリエンタルの料理長で、今は兵庫県篠山市にある料理旅館「金又（きんまた）」の外食部門の料理長を務める平塚孝さんは「どんな肉でもいっしょですが、その肉を使って何を作りたいかを考えて部位を選んでください」と話しています。

スーパーではパックのラベルに書かれていることもありますが、わからなかったらお店の人に相談するのも手とのこと。「最近は鹿児島の黒豚、東北の白金豚、沖縄のアグー豚など各地のブランド豚が色々と出ています。それぞれの肉や脂には、味だけでなく見た目や色の特徴があります。わからないことはどんどんお店の人に聞くといいんですよ」と語っており、各自が知識を集めることにもっと貪欲になりましょうと勧めています。「結局、美味しい料理を作るコツは、どれだけ沢山美味しいものを食べてその味をいかに覚えているか。だから自分が作ってみて何の味が足りないかを考えて、再現しようとするかなんですよ」と美味しい料理を作る基本を教えてくれました。

「そんな情報のひとつとして、豚肉は甘酸っぱい味との相性がバツグンなんですよ。だから酸味のある粒マスタードや、フルーツ系のソースがよく合う。大抵とんかつソースには原材料にフルーツがいっぱい入っていますからね」。なるほど、そうして考えればよく酢豚にもパイナップルが入っていることがありますその点を聞いてみると平塚さんは、「あれは人によって好き好きなんですけどね」と苦笑していました。「実際、スペアリブをタレに漬け込む時にパイナップルを潰して加えることもありますよ。それにパイナップルには、タンパク質分解酵素が含まれるので、肉を柔らかくしてくれます」。平塚さんの話を聞いていると、フルーツとの相性は味だけではなさそうです。「他には、プラムとも相性がいいですね。香草ならセージやローリエなど…、普段あまり使わないハーブを使って、とっておき感が演出できるんですよ」。

最後に、豚肉にはどんなお酒が合うのかと尋ねると、「意外に好相性なのがバラ肉と冷やしすぎていないワイン」だとの答え。冷やしすぎるとバラ肉の脂が口の中で際立ってしまうのだそう。白でも赤でもスパイシーなのもの、赤ならやわらかなタンニンのものがおすすめです。タンニンが強すぎると豚肉と合わなくなってしまうそうですよ。

豚肉は色んな部位が食べられており、沖縄でよく食される耳は、独特のコリコリとした歯応えを楽しむためのもの。刻んでサラダの上からかけておくと、それが塩の代わりにもなるんだそう。まだまだ他にも、色んな部位を思ってもいない食べ方で楽しめそうです。
みなさんも平塚シェフの話のように新しい豚肉レシピで、これまでとは違った豚肉の魅力を見つけてください。

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