コラム編集部のいちおし特集
だしを駆使して和食に挑戦
vol.59
2017年2月3日
■水の性質によって変わった東西のだし文化
昨今はどうやらだしブームのようで、色んな出版社からだしの本が出たり、だしを特集した雑誌記事もよく目にしたりします。だしは料理にとって基本の「き」。きちんといいだしを取っておけば、それだけで十分味がまとまります。殊に塩分を控えたい人は、きちんと取っただしを用いて調理すること。そうすれば塩や醤油、味噌を少なくしても水くさいなんてなくなるのです。要はだしが味を上手く調えてくれるから。だしの良し悪しが身体や舌に影響を与えるといっても過言ではないのです。
旨いだしを取るには、昆布や鰹といっただしの素材が良質であるかどうかが問題。安価なものを使えばそれなりにですが、いいものだと思った以上の効果を発揮してくれます。加えて分量や温度、タイミングなど細かい点を気にして調理すること。料理はちょっとしたことで味が大きく変わりますし、その用い方が間違っておれば、その良さも出なくなります。
日本列島は東西に長いため、その土地ごとに嗜好も異なります。関西は軟水なので、昆布を駆使しただし文化が生まれました。一方、関東は関西と比べると、水がやや硬く、そのために昆布だけでだしを取ると、沸騰する前に濁ってしまうのです。なので鰹節でだしを取る文化が根づいたようです。江戸時代には、蝦夷地(北海道)で採れた昆布が北前船によって大坂へ運ばれていました。当時はまだ大坂が天下の台所で、江戸よりも良質のものが流通していました。関東へは残りの質の落ちた昆布が出回っていたので余計に昆布だし文化が生まれなかったのでしょう。
醤油に関してもこの水の性質が影響しています。関西は昆布だし主流だったので、薄口醤油で素材の色を出しながら調味したのです。一方、昆布だしが出にくい関東の水では、どうしても薄口醤油が合わず、逆に濃口醤油が合っていたので、関西よりも濃い味付けになったようです。だしの専門家によると、関東の水は関西に比べて約三倍ほどだしが出るまでに時間がかかるとのこと。それくらい地域の水の性質がだしに影響を及ぼしていました。
但し、昆布と鰹の合わせだしを見つけたのも関西。大坂に永代濱(干鰯や塩魚、鰹節、昆布を扱う店が集中していた地域)ができた江戸時代初期には、すでにそのだしの取り方が行われていたと伝えられています。
■植物系と動物系を合わせて相乗効果を
関西のだしは、昆布だしだけではなく、鰹、鯖、宗田節などオールマイティで、うどんやそばのだしにはそれらが適しています。片や関東は鰹だしがメインで、そこに鰹・昆布の合わせだしが加わります。九州はあごだしやイワシが主になっており、煮干しが活躍。殊に昨今は九州のだしメーカーが全国展開を果たしているので、多くの家庭でもあごの入っただしを用いるようになりました。
昆布だしはグルタミン酸を含み、鰹はイノシン酸を含みます。それに干し椎茸はグアニル酸なので、これらを合わせて使うことで旨みの相乗効果が得られます。それに動物性の成分に植物性の成分を合わせると旨くなるので、そういった組み合わせを考えながらだしと食材を合わせるのもいいと思います。
だしを取るにあたっての注意は、どの素材もグツグツ煮込まないこと。煮込みすぎると、アクやえぐみが出てしまうからです。そしてせっかくいい素材で取っただしは、冷蔵庫にて保管しておきましょう。冷凍保存も可能なので製氷器を使って凍らせると便利です。
だしをきちんと取って調理に用いると、味に奥深さが出ます。香りが広がり食欲も増すと思われます。しっかりだしを取ることで旨みがたっぷり染み込みますので薄味だからといって物足りなく感じません。こうすれば前述したように減塩効果も得られます。