昔から現代まで色んな工夫をしておつまみを作っていたコラム
vol.48
2016年1月8日
■できあいのものでうまく調味する
急な来客時の対応やちょっと飲みたいと思う時、それに疲れて帰って来て料理を作る気がしない時など、手軽にできるレパートリーを持っていれば何かと便利です。できあいのもので間に合わせればいいという考え方もありますが、流石にそれでは味気がない。そんな時こそ、自分の中の鉄板レシピとして5分程でできるメニューを持っていれば役立つはずです。今回の特集は、時短をテーマに5分以内でできるおつまみを挙げています。
4品の作り方を記しましたが、その大半が混ぜるだけ、あえるだけといった手法で、塩昆布や焼豚、ザーサイ、ピザ用チーズなどそのもの自体が持つ味わいをうまく使うことで味付けも難なくできるようにしています。これなら全く料理をしたことがないという男性でも簡単におつまみを作ることができるのではないでしょうか。中でも「さば缶アクアパッツァ」は、普段なら20〜30分かかるものを、さば缶を使用することでたった5分で出来上がります。缶詰がどうも嫌だという向きも、白ワインで煮込むことで独特のさばの臭みも取り去ってくれるので、苦にせず食せるでしょう。オリーブオイルの中ににんにくを入れて香りを立たせ、その中にプチトマト、オリーブ、白ワインを加えることで煮汁自体に旨みが凝縮されていきます。調理ポイントは火加減。中火〜強火で4分程、水分を飛ばすように煮込んでください。そうすれば簡易版アクアパッツァが出来上がります。
料理には色んな素材や調味料を使うのが美味しく仕上げるコツだといわれていますが、一般の調味料とは違うできあいのものを用いながら、その持ち味を引き出すのもひとつの手。例えば、塩昆布は昆布の旨みに加え、塩味と甘み、しょうゆが含まれているので、あえて他の調味料を使わずともよくなります。また、あられ、せんべいなどのお菓子類も同じ。あらかじめ調味されているためにそれらの味を用いて作ると美味しくできるのです。数年前の食べるラー油のヒット以降、それだけで十分食せる調味料が出て来ました。食べるラー油は勿論、塩トマト、塩レモン、食べる唐辛子がその代表例で、これらを使うと味がまとまりやすくなり、調味に失敗しないケースも。それに色んなものを加えなくてもそれだけで味付けできるのも嬉しい点です。
■江戸期のつまみ「竹虎」「雪虎」
最近はファストフード店でお酒を出しており、ちょい呑みがキーワードになっています。その流行を拾えば、やはり家でも一杯だけ飲みたいなんて傾向が出てくるのかもしれませんね。歴史を紐解くと、何もこのちょい呑み傾向は今に始まったことではなく、江戸期にはすでにあったようです。酒屋で飲むことを居酒(いざけ)といい、量り売りする酒屋の店先で飲ませたのが居酒屋の始まりだと伝えられています。俳人の宝井其角も「にぎやかに名月の夜請酒屋」と詠んでいるように当時は酒屋で仲間が集まって飲むようになっていたのだと思われます。そしてその進化系として友人同士が酒を飲み交わすのではなく、酒屋にひとりで出かけて行ってちょい呑みする者も現れて来ました。
江戸期には酒のつまみとして「竹虎」や「雪虎」なるものが登場し、庶民の間で普及したそうです。これは今日でいう厚揚げの焼いたもの。網の上に厚揚げを載せ、焼いていくうちに格子の焦げめがつきます。黄色(厚揚げ)の生地に黒の縞(焦げめ)がつき、何となく虎を想像させたのだと思います。「竹虎」はその厚揚げに青ねぎを載せたもので、ねぎを竹に見立てています。一方、「雪虎」は大根おろしを載せており、雪が積もった雰囲気を醸し出しているのです。この「竹虎」「雪虎」は、何も江戸期のおつまみではなく、北大路魯山人も文献に記しているくらいですから昭和まで残ったのでしょう。氏は「全く夏向きのもので、朝・昼・晩のいずれに用いてもよい」と言っているのでよほど好んでいたのかもしれません。今でも厚揚げを焼いたものは残っていますが、厚揚げといわずに「竹虎」「雪虎」と称すところに江戸期の人達のネーミングのうまさが伝わってきます。
さて、江戸期から現在まで脈々と続くちょい呑みの世界。作った料理に酒を合わすのではなく、時にはお酒をセレクトしてからそれに合うおつまみを作っていく_、そんな楽しみ方をしてみるのも面白いのではないでしょうか。