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さんまが不漁の年は、いわしが豊漁コラム

vol.18

2010年11月10日

 いわしは広く日本全国の沿岸に生息し、古くから日本人の食卓に上っていたようで、縄文時代の貝塚から骨が発見されているほど。いわしと言う名前の由来は、魚偏に弱いと書く「鰯(いわし)」の漢字からも判るように、水から上げるとすぐに死んでしまうことから「よわし」が転じて「いわし」になったと言う説。それと大量に獲れて安い魚であったことから下品の意味である「いやし(い)」が転じて「いわし」となったと言う2つの説があります。意外なところで、源氏物語を著した紫式部の好物がいわしだったのだとか。ところがいやしい魚とされていたため恥ずかしがって隠れて食べていたところを夫に見つかり、下品だとなじられたそうです。紫式部の当時、皆がこぞって参詣していた岩清水八幡宮にいわしをかけて、「日の本に はやらせたまふ 石清水(いわしみず)まいらぬ人は あらじとぞおもふ(岩清水八幡宮に皆がお参りをするように、鰯を美味しいと思わない人はいませんよ)」と言う歌をとっさに作ったとか。その機転に夫は感動し、夫婦ともにその後もいわしを食したそうです。それにちなんで、宮中の女房達の間ではいわしのことを「御紫(おむら)」「紫(むらさき)」と呼ぶようになったといいます。

  いわしはニシン科に属し、日本で食されているのは主に大きく分けて真鰯(まいわし)、片口鰯(かたくちいわし)、潤目鰯(うるめいわし)の3種類です。それぞれについて簡単に述べると...。

 真鰯はナナツボシ、平子鰯(ひらごいわし)、金樽鰯(きんたるいわし)など日本各地での呼び名が色々とあり、体の側面に1列か2列に黒い星が7つ、またはそれ以上並んでいます。日本全国の沿岸に広く分布しており、特に太平洋岸に多く生息しています。15pほどのものを中羽(ちゅうば)、20p以上のものは大羽(おおば)と呼んでいます。旬は夏から初冬になります。片口鰯は、口の上の部分よりも下の方が大きいので口が片方しかないように見えるため、片口鰯と呼ばれています。真鰯よりもやや南に生息していることから、東日本では生を目にすることは少なく、煮干、干物、しらすなどの加工品として食卓に上ることが多いです。西日本では手に入りやすく、特に瀬戸内などでは鮮魚を刺身にして食します。3種のいわしの中でも身が固めなので歯応えがよく旨味も強いため、海水ほどの塩水で洗った刺身の美味さを、『小いわしを七回洗えば鯛の味』と鯛の旨さに例える言葉があるほどです。ちなみに片口鰯の旬は冬です。 潤目鰯は、からだの大きさの割に目が大きく、潤んでいるように見えることからそう呼ばれています。本州よりも南のオーストラリア南岸、アフリカ東岸、北米沿岸、南米太平洋側沿岸、ガラパゴス、ハワイの周辺に生息しています。鮮魚としてスーパーで目にすることは非常にまれで、脂肪分が少ないので干物などの加工品に向き、目の部分に藁等を通して風に干して目刺しにしたり、みりん干しにします。

 旬の野菜をその時季に摂るのが身体にいいとは判るものの、買ってきた野菜をどう料理しようかと考えるのは実際面倒なものです。そこで、買ってきた野菜が新鮮なうちに、簡単な下ごしらえを済ませておくのもひとつの手です。例えば、きゅうりを何本か買ってきたら、一本はスティック状に切り、一本は薄切りにして塩もみにしておく。さらにもう一本は蛇腹切りにして甘酢に漬けるなどと方法を変えて下処理をしておくのがいいでしょう。スティック状のものはすぐに味噌やドレッシングをつけて食すことができ、塩もみしたものはサンドイッチの具に、甘酢に漬けたものは酢の物にと、すぐに使うことができます。またトマトなら冷凍したり、ゴーヤなら薄切りにして塩もみしたものと素揚げにするのもあります。こうやって簡単な下処理をしておくことで朝、昼、晩の食卓に、様々な野菜を使うことが可能になるはず。強いては野菜の摂取量も増え、夏バテだけでなく生活習慣病やその他の病気の予防にもつながることでしょう。

 いわしにはビタミンB2、B6、B12、D、Eが豊富に含まれ、鉄分、カルシウムも多く、血液をサラサラにして動脈硬化予防の効果や、中性脂肪を減らす効果があるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)も多く含まれています。水中のいわしは、いつも大きく口をあけて泳ぎ、海水と一緒に口に入ってくるプランクトンを主食としています。そしてクジラ、サメ、マグロ、カツオなど、多くの魚がそのいわしをエサとしていることから、海の牧草とも呼ばれています。大きな魚のエサにされる立場のいわしですが、己の身を守るために常に群れを作り、その影を大きな魚のように見せかけているようです。 

 陸上では、古くから庶民の食べ物として、また畑にすき込む肥料として、家畜や魚の養殖の飼料としても重宝されていました。しかし、いわしは10〜数十年ほどの周期で漁獲高に大きな変化があるため、肥料や飼料としてあてにしていたものが手に入らなくなって生産に影響を与えたこともありました。
 近年では、いわしの漁獲高は1984年の1206万トンをピークに、2005年には511万トンへと一気に減少しました。特に真鰯は、2008年には漁獲高が10万トンを切り、高級魚の仲間入りをしてしまいました。ところが、今年は長く続いた酷暑が影響したのか、秋の味覚の代名詞と言われる秋刀魚が近年にない不漁となり、その代わりにいわしが豊漁となっています。これは昔から漁師や料理人の間で言われていた『さんまが不漁の年はいわしが豊漁』を証明していると言えるでしょう。

 それでは今年豊漁のいわしを味わうことにしましょう。まず、いわしを買う時は、丸々として固い物を選びましょう。太っていると脂がのっていて旨味が強く、身が固いと獲れてからの時間があまり経っていないので新鮮です。ちなみに、スーパーなどで売っているいわしで、くにゃりと曲がる物は少し時間の経ったものです。近年は流通スピードや輸送中の冷蔵技術の向上とともに、刺身、叩き、ナメロウ、酢締めなどの生で食せる、鮮度のいいものを手軽に買うこともできるようになりました。

 蒲焼きやフライなどにする中型以下のいわしの身は金気を嫌うために、包丁を使わずに指で開く『手開き(てびらき)』と呼ばれるさばき方をします。まず、ウロコがあればそれを取り、頭を落として腹を切り、内臓を取り出して残った内臓や血を丁寧に水で洗って水気をふき取ります。次に腹の中を頭側から尾に向かって、親指の爪先で背骨と身を離すように指を入れて身を開いていきます。尾の付け根までたどり着いたら背骨をそこで折ります。そしていわしをまな板の上に広げて置き、折り取った背骨を尾の側から頭に向けてゆっくりと持ち上げるように、もう片方の手でいわしの身を押さえながら、できるだけ背骨に身が付いてかないように取り除きます。その際、腹骨などの小骨もできるだけ一緒に取るようにします。もし腹骨が残っていれば、包丁で薄くすき取ります。最近は頭を落として内臓を取り除いたものや、開いた物がスーパーの鮮魚売り場に並んでいるのを目にすることもあります。でも、ネットで検索すれば手開きの詳しい動画などを見ることもできますので、新鮮ないわしが手に入ったら、ぜひ自分で手開きに挑戦してみてください。慣れればあっという間にできるようになりますよ。

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